いのち日記

35w2d 幸せで抉りたくはない

 おはようございます。昨日は曇り空の下で水通しを行いましたが、昼前には晴れ間も覗いてきていい感じに太陽光で洗濯物を干すことができました。
 水通しが終わったものをまとめて詰め込んで、入院バッグの再整理をして、あと入院に必要な書類に自身の記入を済ませたりもしましたね。入院には連帯保証人が必要とのことなので、また近いうちに実家へとお願いしに行くことになりそうです。

 水通しを干すのには夫も手伝ってくれたのですが、その後夫が、私のお気に入りのケーキ屋さんで誕生日ケーキを買ってくると言ってくれたので、私も車に乗り込み同行することにしました。流石に感染者が急増しているためゆっくり中で選ぶということはできなかったのが惜しいところです。誕生日当日はこのお店、定休日だったので、数日遅れでも調達してくれたことが本当に嬉しかったですね。
 購入してくれたケーキのうち、モンブランは昨日昼のデザートに美味しくいただきました。クリームが美味しいのは分かりきっていたことだったのですが、モンブランの下がマカロン生地になっていて、サクサクの軽い食感にとても驚かされました。どこから食べても美味しかった……。
 四角いチョコケーキは今日にでも、結婚記念日の前祝いとして食べようと思っています。1/31はまた月曜日で、どのみちこのケーキ屋さん、また定休日なのでね……。

 とまあここまでは個人的な日記に過ぎないのですが、今日の本題としては、休職先のチーフさんからお電話を頂いたことですね。ちょっと長くなるかもしれませんが、書き留めておこうと思います。
 産休・育休のため丸1年、お休みを頂くことになり、休職開始日に徳島県の同僚様方に挨拶メッセージを送って、さあこれで心置きなくお休みできるぞという気持ちだったのですが、少し日が空いてからの連絡だったので、休職手続関連の話ではないのだろうな、何だろうな、と思いながら出たのですが、単なる挨拶と、近況を尋ねる内容でしたね。び、びっくりした……何かやらかしていたのかと思いました。

 ただチーフさんの側には確認しておきたいことがあったようで、私が送った全体メッセージの中に「出産のため」という、休職理由が書かれていなかったことが気掛かりだとのことでした。「休職の挨拶、折角丁寧にしていただいたのに、理由が分からないと皆さん、体調が悪化しているのかなって心配されると思うから……」というのがチーフさんの言い分で「私から皆さんに説明しておいてもいいかな」と言われてしまいました。
 これ、「言わないでください」というのは明らかにおかしな話ですよね。いのちのことを後ろめたく思いたくはない。だから本来であればちゃんと報告できるはずですし、お世話になった同僚様方のことを考えるとやっぱり隠さず報告するのが筋、なのでしょう。チーフさんの言い分は筋が通っています。何も間違っていない。間違っていない、のですが……。

 不妊治療で散々お世話になったあの産婦人科で、実は私、徳島で一番仲良くさせていただいていた同僚さんのお名前を見つけたことがありまして、「あっ、この方も不妊治療をしているんだ」と、当時ひどく驚かされたのですよね。コロナ禍で、待合室での待機が好ましくないため、受付前の紙に来院時間と名前を記入して一旦車に戻り、病院からの「そろそろ診察時間です」のメールが来るまで待つという流れを取っていた時期が一定期間あったのですが、その時にね、本当に偶然、数個上の行に見つけてしまったんです。よく知ったお名前を。
 顔を合わせたことはないので、同姓同名の誰かかもしれないのですが、ただ以前、研修で顔を合わせた折に「赤ちゃん欲しいなあ」と口にされていたことも記憶に新しかったので、「この方の治療は今どの段階で、これまでどのくらい苦しんで、これからどれくらい挑戦を重ねる心づもりなんだろう」ということを思って、確定事項でもない、しかも他人のことなのに、とても辛くなったことを覚えています。

 私には幸いにも経験がないのですが、不妊治療中に知り合いから受ける妊娠や出産の報告って、酷いことだとは分かっていますがとても辛く、悲しいものなんです。
 自分が辛い時、挫折している時、苦しんでいる時に見る「他者の幸せ」って多かれ少なかれ憂鬱な気分にさせてきますよね。受験に落ちた身で聞く他者の合格発表とか、別れた直後に通りですれ違う恋人たちの姿とか。
 ただそういうものよりもずっとずっと、この「不妊治療中に飛び込んでくる妊娠・出産の報告」って当事者の心を抉ってくるんです。産婦人科の病院ですれ違う女性が、不妊治療ではなく妊婦健診で通院していると知った時、鞄にマタニティマークが付いているのを見つけた時でさえ、心が揺れます。名前や顔を知っている知り合いからの報告であれば、尚の事、その辛さは耐え難いものだと思います。

 その辛さを万が一にも、私の報告で、同僚さんの中で一番大事な方に与えてしまう可能性があるのなら。
 そう考えると報告するのが恐ろしくなってしまって、とうとう事情を説明しないまま休職してしまっていました。結果として隠れるように休職する流れとなり、しかもその事情をチーフさんに言及させるとかいう恥ずかしすぎる顛末になってしまっているのですが……。
 ただ、私は私なりの理屈で口を閉ざしていた、ということを、上手くチーフさんに説明できる自信がなかったため「そうですね、理由を離さないままでは皆さんを不安にさせてしまいますよね」と同意することしかできませんでした。
 もうこうなってしまっては、同僚さんが不妊治療をしていない可能性、もしくはもうとっくに妊娠・出産している可能性に賭けるしかありません。同姓同名の可能性はないでしょうし、不妊治療クリニックに顔を出しているということは「当時は間違いなく『そういう望み』があった」ということなのでしょうから……。

 いのちが来てくれたこと、無事に産まれてきてくれようとしていること。それらは誰に否定されるべくもない、紛うことなき私の幸せです。数年かけてやって来てくれた、何にも代えがたい、私よりも大切な幸せの形です。
 その幸せを「どうせまたいなくなる」として長らく信じられていなかったのは他ならぬ私ではあるのですが、その「どうせまたいなくなる」という危うい状況さえ、妊娠判定を貰ったことのない妊婦さんにとっては心を抉られるような幸福の形に違いないのでしょう。

 確かに私は幸せです。やってきてくれたいのちのおかげで否定しようもなく幸せです。いのちがくれた全てが私に幸せだと言わしめています。全てこの子のおかげです。
 ただその幸せを……何て言ったらいいのかな。無縁慮にばら撒きたくはない、という気持ちがあり、結果として同僚さん方に不実な対応をしてしまうことになりました。
 今回の私の選択は、チーフさんに手間を掛けさせた点も加味して考えると大失敗だったと思うのですが、ただ「こういう発想」……すなわち「妊娠・出産報告で傷付く人が少なからずいる」「私はそんな想いを他の人にさせたくない」という発想が出て来るのも、私が数年間不妊治療を続けてきたが故のことだったような気がしています。

 同じように「今の私が何を話しても、この人に『そういう思い』をさせるだけだ。そんな関係は双方のためにならないからしばらく沈黙していよう」と考えたケースがつい先月末にもありました。こうやって人は臆病になっていって、そして愚かな選択ばかりしていく。人生を豊かにしてくれるはずの「経験」とやらによって、どんどん馬鹿にさせられていくような気さえします。
 愚かなのが私の側であったとしても、傷付けないため、傷付かないために取った選択が、間違っていたとは思いたくないのですが……こればかりは相手当人でないと分からないですからね。
 今回の妊娠・出産報告の件に関しても、チーフさんからの事情説明によって傷付く方が出ないことを祈るばかりです。もうそれくらいしか、できそうにありません。

 生まれてくるいのちや、生まれてくることを喜んでくれている家族たちにはちょっと話しにくい内容だったので、此処に置いていかせてくださいね。
 今日は夫がお休みの日なので一緒にのんびり過ごすつもりです。素敵な1日になりますように。

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